こんにちは、作業療法士のよろずやOTです。
少子高齢化で認知症患者が増える昨今、簡便な認知症検査の需要は高まる一方だと思われます。
そこで今回は、医療、介護系の職種にとって最もメジャーな認知症検査であるMMSEについてまとめました。
MMSEとは
MMSEの概要
MMSE(Mini Mental State Examination)とは、1975年にFolstein夫妻に開発された、精神状態短時間検査です。
測定にかかる時間は5-10分程度であり、簡便に行えます。
認知症の発見や、特定の時点での認知症の重症度の測定、一人の患者の認知機能の変化の追跡など幅広い場面で利用されています。
MMSEは11のカテゴリーで構成されています。それは、時の見当識、場所の見当識、記名、注意と計算、再生、呼称、復唱、理解、読字、書字、描画です。
カットオフ
30点満点であり、23点以下を”認知症の疑いあり”としています。「23点以下になると即認知症」というわけではなく、あくまでも疑いありです。
また、重症度の分類として、正常な認知機能を27~30点、軽度認知症:21~26点、中程度認知症:11~20点、重度認知症:0~10点としています。
これもあくまで目安です。
そもそもMMSEの得点はどこで間違えたかによっても意味合いは大きく異なります。23点は研究的には信頼性のある数字だそうですが、目の前の患者を評価する視点においては、参考程度にとどめておく方がスマートかと思われます。
MMSEの方法
MMSEの検査内容についてですが、著作権云々が怖いので、簡単な項目のみ挙げさせていただきます。
各項目の注意点を中心に今回は書いていきます。
時の見当識
「今年は何年ですか」
「今の季節はなんですか」
「今日は何日ですか」
「今日は何月ですか」
「何曜日ですか」
の5つの質問からなり、合計5点です。
場所の見当識
「ここは何県ですか」
「ここは何市ですか」
「ここは何地方ですか」
「ここはどこですか」
「ここは何階ですか」
場所に関する見当識です。合計5点です。
記銘
各単語一点ずつの合計3点です。
注意と計算
5回まで繰り返し、合計5点です。
再生
一単語につき1点で合計3点です。
呼称
各1点の合計2点です。
復唱
「私がこれから言うことを繰り返して言ってもらいたいです。よろしいですか?」
「みんなで力を合わせて綱を引きます」
「はい、言ってみてください。」
1点満点です。
理解
A5サイズ(A4の半分)程度の白い紙を被検者の前に置き、「これからあることをしてもらいたいので聞いてください。」
「右手に紙を持って」「それを半分におって」「机の上においてください」
各動作1点ずつの合計3点です。
読字
「これを読んで書いてあることをやってください。」
《目を閉じてください》と書いてある検査用紙を見せる。
合計1点です。
書字
合計1点です。
描画
合計1点。
MMSEの解釈
MMSEはカットオフ値(23/30点満点)は存在しますが、合計の点数よりも重要なことがあります。それは、どの項目で減点され、それが生活にどう影響するのかということ。しっかり項目の要素を把握し、日常生活との関係を考えましょう。
時の見当識
これは今日はいつで季節はいつかわかる能力です。周りの状況や記憶の情報を総合的に解釈し、今がいつなのかを判断しています。これが障害されると、今は夏なのに冬と言ったり、8月なのに12月と言うようになります。今がいつかわからず、今自分が置かれている状況が理解できていない状態になります。そうなると、不安に繋がりBPSDの要因となります。日常生活では時間が分からなくなったり季節に合わせた服を選べなくなったりします。
場所の見当識
今自分がどこにいるかがわかる能力です。「時・場・人(ジバジン)」などといい、多くは時間の次に障害されやすい部分です。時間の見当識と同様に周りの情報や記憶から今自分がどこにいるのか判断していますが、これが障害されると自分がどこにいるかわからなくなります。日常生活での問題は道に迷って家に帰れなくなったり、さらに不安に繋がり精神状態に悪影響を与えます。
記銘
これは認知症で多くみられる記憶力の項目ですが、記憶の三段階(記銘、保持、再生)の記銘の部分に着目しています。記憶の大元のインプットの部分が障害されるので、その後の保持、再生は機能しません。日常生活では、いわゆる認知症でよくみられる症状が多くなります。例えば、ご飯を食べたことを忘れて怒ったり、財布をしまったことをわすれてしまったりです。BPSDやトラブル の原因になりやすいです。
注意と計算
これは計算の力を見るだけではなくて、「前の数字」と、「7を引くこと」を同時に行うことが重要です。これはワーキングメモリー(作業記憶)を必要とします。これが出来なくなると、一連の流れで行動することが難しくなります。行動をしている途中で何を目的にその行動をしていたのかを忘れてしまいます。日常生活では『お茶を入れて、ケーキを食べる』のような一連の行動が難しくなってきます。お茶を急須に入れ、お湯を注ぎ、湯呑についで、そこでケーキを、食べようと思っていた事を思い出し、ケーキの準備をする。お茶も入れていた事を再び思い出し、やっと食べられるわけです。より重度になると、お茶を入れる事であっても、お湯を沸かしている時点で何をしていたか分からなくなり、行動できなくなってしまうこともあります。また、この機能が低下していると2つの事を同時に行うことも困難となり、『会話をしながら料理をする』『テレビを見ながら掃除をする』といった時にも、一方に気を取られ過ぎると、もう一方の事を忘れてしまうことがあります。
再生
記憶の三段階(記銘、保持、再生)の中の最後の部分です。覚えてもらった言葉が出ないのか。覚えようとしたことさえ覚えていないのか。が一つポイントになります。後者であればエピソード自体を忘れているわけですから、症状としては基本的に重いと考えられます。日常生活では、前者であれば、人の名前や予定の忘れなどいわゆるど忘れが増えると思われます。後者では、朝ごはんを食べたことを忘れたり、財布をしまったことを忘れたりと、エピソード自体を忘れがちになるため、トラブルになる事が増えて来ることが予想されます。
呼称
これは、視覚的な認知課題です。どちらかと言うとアルツハイマーより、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症脳血管型認知症で引っかかることが多い検査です。視力は保たれているけど、目で見たものが認識できない、いわゆる視覚失認と言う状態になると間違えることがあります。また、その物品がなんだか分かっていても、言語的な障害があると、呼称することができません。これはいわゆる失語症状で、高次脳機能障害の一つになります。日常生活では、検査のように物の名前がわからなくなります。
復唱
一部記憶も入っていますが、言語的な課題です。言葉を文章として認識し、自分で繰り返せるかを見ています。言葉の理解にもかかわるので日常生活においては、会話が成り立ちにくくなり、言葉のキャッチボールが困難になります。
理解
言語理解と動作性の課題です。「耳で聞いて、理解して覚えてその通りに動く」複合的な課題です。やるべきことが増えるほど複雑な形になります。これが減点されていると、なかなか話が通じなくなります。たくさんの情報を一度に処理できなくなっている状況です。「トイレに行って、手を洗って、景色を見て帰りましょう。」こんな声かけでも、難しいこともあり、「トイレに行きましょう」で終わったら「手を洗いましょう」と一つづつクリアしてから次の指示に移ったほうが伝わりやすいことが多いです。
読字
字を読む能力です。こちらはどちらかと言うと、レビー小体型認知症や、前頭側頭型認知症など、視覚認知や、言語理解に障害があると減点されやすいです。日常生活では、指示入力において、視覚的な指示がわかりづらくなることが考えられます。例えば「ナースコールを押してください」が理解しづらかったりします。聴覚的か視覚的かを検討する際にも注意すべきポイントになります。
書字
言語、動作性の課題です。前頭葉の機能低下があると、発動性が低下し、自主的に行動することが困難になり、書き始められないことも多いです。手紙を書けなくなったり、自発的に話すことが少なくなります。
描画
空間認知の課題です。その形の意味は分からなくても、形自体が分かっていれば模写は可能なはずなので、これができないという事は形自体が認識できないということです。レビー小体型認知症や、後頭葉の脳卒中で障害されることが多く、これが減点されると、道に迷ったり、字の認識ができなくなったりします。
長谷川式スケール(HDS-R)との違いについて
MMSEと似ている認知症検査の一つに、HDS-Rという検査があります。HDS-Rは、精神科医の長谷川和夫氏が開発した認知症の検査です。我が国における簡易認知症検査の中では一番の歴史があります。年齢、日時の見当識、場所の見当識、記銘、計算、数字の逆唱、再生、物品記銘、言語の流暢性の9項目からなり、30点満点で20点以下は認知症の疑いが高いとされています。重症度分類としては、20点以上で軽度、11~19点の場合は中等度、5~10点で高度、4点以下は非常に高度となります。
まとめ
MMSEの検査項目についての解釈についてまとめてみました。
MMSEは非常に簡便な検査で、多くの施設や病院で実施されているかと思います。MMSEに限らずどんな検査でも同じだと思いますが、「その検査の結果によって日常生活にどんな影響があるのか」「ではどのように対応していけばいいのか」というところまで考える必要があり、それによって素早く、適切な対応が可能になるということを忘れずに検査を行っていければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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